フォリンのお題5.チーム戦。
作中で出てくるコンボ撃破は実話です。
弟とプレイ中、CPLv9設定・ランダム選択で遊んでいたら、フォックス&リンクペア。
元祖情け無用組み手を思わせる強さでフルボッコにやられ、CP戦初敗北を喫しました。
20種類もお題あったし、2人とも無印からの皆勤賞なので、「無印版」・「DX版」・「X版」に書き分けることにしました。
1~5、無印
6~10、DX
11~20、X
で書き進めていきます。
まとめとして強いてあげるなら、無印版は会話キャラが少なくて第三者視点を書き分けるのがすごく難しかったです。
DXバージョンもお楽しみに☆
『Are you READY?』
(準備は、いい?)
月に一度の末日、その月いっぱいの対戦成績表が張り出される。
言わば、これはステータス表。
それによってクラス、順位分けがされるのだ。
個人戦、チーム戦、イベントバトル、等詳しいデータ全てが表示される。
この日はファイター全員にとって緊張する日であると同時に嬉しい結果が出される日でもあった。
「あっ!!順位、前回より上がった!!やったぁ!!」
「うわあ、やばい・・・。下がってるよ・・・。今日頑張らないと・・・」
ファイター達のそれぞれの喜ぶ声と悲嘆に暮れた声が聞こえる。
そんな中、意外な結果が張り出されていた。
それを見つけたネスが思わず声をあげる。
「ああっ!!チームバトルの順位表が!!マリオさんとルイージさんタッグが初めて二位になってる!!」
『えええええっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?』
ネスの言葉にファイター全員がチーム戦成績表の掲示板に詰めかける。
大乱闘が始まって以来、マリオとルイージの双子兄弟タッグは隙のない攻めと阿吽の呼吸とも言うべき息のぴったりさで付け入る隙すらないとまで言われていた。
付け入る隙すらない兄弟タッグに勝ち目はないと思われていて、みんなチーム戦のトップはマリオ・ルイージペアだと疑ってもみなかった。
だから、この事実にはみんな驚きを隠せない。
「じゃあ、一位はどこのタッグなの!?」
「ぽよっ!?(ボク!?)」
「ピカピカ!?(誰なの!?)」
「ヨッシー!!(ボクとマリオさんだよ!!)」
「ウホッウホッ!!(俺のチームに違いない!!)」
「プリッ!!(アタシよ!!)」
「・・・僕たちが、初めて二番になるなんて」
「待てよ、俺とサムスのタッグが三位って事は・・・」
「じゃあ、一位は・・・!!」
マリオが一番上に書かれたタッグの名前を確認する。
それと同時にその場に駆け込んできた2人に視線が集中した。
「ほら、リンクいつまでも寝ぼけてないで、起きて!!あっ、みんな遅くなってごめんなさい」
「・・・ふああ、ねむ。・・・ん?みんなどうした?」
先に集まっていたファイター全員の視線を受けて、寝ぼけ眼だったリンクが目をこする。
「夜更かしするからいけないんだろ」と釘を刺しているフォックスといつものように他愛のない言い合いを始めた。
どう見ても性格が正反対な2人をファイター達は見つめた後、確認するように掲示板の一番上をもう一度見る。
そこに書かれていたのは・・・。
『今月の成績表 チーム戦 第1位 リンク&フォックス』
「絶対納得がいかないーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
さっきからマリオの雄叫びが止まらない。
よほど一位の座から引きずり下ろされたのが悔しかったのだろう。
ルイージやヨッシーが宥めてもマリオの叫びは止まらなかった。
「ま、まあまあ、兄さん。落ち着いて、たまにはこんな事だってあるよ・・・」
「ヨッシー・・・(そうそう、気にしない気にしない・・・)」
「これが気にしないでいられるわけないじゃないか!!」
わかってないとばかりにマリオはテーブルを叩く。
その気迫に負けてルイージとヨッシーは口をつぐむ。
大人しくなった二人にマリオは語気も荒く、リンクとフォックスが座っている方向を指さす。
「なんであんなでこぼこコンビに兄弟タッグが負けるんだ!!しかも、この世界に来るまでは面識もない上に世界だって天と地くらいの違いがあるのに!!もう、信じられないよ!!」
「・・・なんかあいつらすごい言われ方してるな」
「往生際が悪いわよ、マリオ。潔く負けを認めなさい」
あまりにきつい物言いをしているマリオを見かねて、ファルコンとサムスが諫めに入った。
上位2人に止められてさすがのマリオも口をつぐむが文句は止まらない。
「だって・・・」
「事実なんだから、しょうがないだろ?それに、マリオみたいに知り合いが多いのなんてここでは珍しい方だ。それに、俺たちだって面識なかったけどチーム戦三位だぜ」
「そうよ。ここでは実力が物言うんだから、そんなに納得いかないならやってみたらいいじゃない」
サムスの冗談ともつかない言葉にマリオの目に炎が燃え上がった。
そしてルイージの手を引くと有無言わさぬ様子でフォックスとリンクが座っているテーブルに近づく。
2人に懐いているピカチュウとカービィも一緒だったが、マリオの纏うオーラにびびってそれぞれリンクとフォックスの影に隠れてしまう。
「マリオ?どうしたんだ?」
「ルイージさんも、何かご用ですか?」
バン!!
マリオがテーブルの上に何かを叩きつけた。
手を離すと、そこに現れたのは『果たし状』と書かれた書状。
つまり、挑戦状だった。
「今日の夕方、終点ステージで私とルイージのタッグと君たちで勝負だ!!時間制限無しのストック制、一本勝負!!これではっきりさせるからね!!」
「ええっ!?」
「本気ですか!?」
「・・・兄さん、それはちょっとご無体な」
マリオの言葉にその場に緊張が走る。
ルイージも思わず止めにかかったが、鼻息荒くなったマリオは止められない。
有無言わさず立ち去ったマリオとルイージ。
そこには叩きつけられた挑戦状だけが残っていた。
「ぽよぉ・・・(どうしよう・・・)」
「ぴーかぁ・・・(大丈夫かなぁ・・・)」
マリオがいなくなってカービィとピカチュウはそれぞれの顔を心配そうに見上げる。
リンクは挑戦状を広げて、難しい声をあげているフォックスの前でひらひらとそれを振った。
「マリオって結構負けず嫌いだったんだ。ご丁寧にわざわざこんなものまで寄こして・・・」
「やれやれ・・・、せっかく大乱闘休みだっていうのに・・・」
呆れ気味に肩をすくませたフォックスはわざとらしくため息を付く。
だが・・・。
「・・・・・」
「・・・・・」
ちらりとお互いの視線がぶつかり合う。
どこか子供のように楽しんでいる輝いた目。
同じ視線を投げて寄こした相手にリンクもフォックスも笑って見せた。
その日の夕方。
「はあああああああ!!」
「てやああああああ!!」
約束の時間、終点のステージでは激しく戦う音が聞こえる。
残りストック1の状態で始まったストックチームバトルはあっという間に大詰めを迎えた。
「に、兄さん!!ちょっと、助けてよ!!」
「えっ!!待ってくれ、今・・・。ぐわっ!!」
フォックスの連続攻撃を喰らっていたルイージの声に気を取られた一瞬、マリオの横面にリンクのブーメランが飛んだ。
興味深い戦いだったので、ファイター全員がこの試合を見ている。
だが、誰がどう見てもマリオチームが劣勢なのは明らかだった。
ようやく側で固まれたマリオとルイージは相手の攻撃に構えようと体制を整える。
それを見たフォックスが意味ありげな視線を、2人を挟んで反対側にいたリンクに送る。
それに気がついたリンクは頷いて笑った。
「行くぞっ!ファイアー!!」
「「うわあっ!!」」
横からフォックスの必殺技・ファイアフォックスを喰らった2人は横にはじき飛ばされてしまう。
だが、2人同時にではダメージも分散されてしまい、撃墜には至らない。
「くっそー、だが、まだまだ勝負は・・・」
「に、にいさん!!後ろ!!」
ルイージの言葉に振り返ったマリオ。
だが、遅かった。
リンクが既にマスターソードを構えている。
振り返ったその時には、マスターソードが赤く光っていた。
「くらえっ!!回転斬りッ!!」
まるでピンボールのように連続して必殺技ではじき飛ばされた2人はメテオ効果で吹っ飛んでしまう。
黄昏時にキラリと二つ、星が光って飛んでいった。
「あ~あ、挑戦しに行って負けちゃった・・・。マリオさん、格好悪い!!」
「ピカピカ!!」
「ぽよっぽよぽよ!!」
試合を見ていたネスの言葉にピカチュウとカービィはきゃっきゃと笑う。
同じく様子を見ていたサムスとファルコンもネスのつっこみに笑いをかみ殺した。
そしてファルコンは手を伸ばしてネスの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「まあ、でもこれではっきりしたな。参考になったじゃないか、ネス」
「・・・そうですね」
マリオチームがリンクとフォックスのペアに勝てなかった理由。
それは、相手をカバーするかしないかの違いだった。
相手を庇いながらの戦い方は誰だってして当然だし、仲間を守るなら必要なことだ。
しかし、守ろうとすれば反面自分が無防備になってしまう。
諸刃の剣の戦法なのだ。
しかし、リンクとフォックスにはそんな所が一度もなかった。
自分が苦手なところは相手にすんなり譲って、自分の得意分野で戦っている。
基本個人戦に近いスタンスだが、余計な動きやムラが一切ない。
お互いの長所ばかりを生かした戦法にはさすがのマリオブラザーズでも歯が立たなかった。
「でも、あいつ等もいつまでもこの栄光が続く訳じゃないぜ!!そのうちトップは俺がもらう!!」
「僕だって負けませんよ!!」
闘技場の帰り道、廊下で話し声が聞こえる。
「えっ!?フォックス、あれ、俺に始末してくれって意味じゃなかったのか!?」
「あんな場所にいられたら、うまく吹っ飛ばないかと思ってどいてくれって意味だったんだよ」
「この薄情者!!失敗してふっ飛ばなかったらフォックス今頃集団リンチで逆に吹っ飛ばされてたんだぞ!!」
「まあ、その辺は結果オーライって事で褒めてやるよ」
「生意気言うな!!年上だと思って、俺より小さくてリーチ短くて吹っ飛びやすいくせに!!」
「小さいって言うな!!リンクこそ吹っ飛びにくい分、技出すの遅いくせに!!アレ、まぐれだろ!?」
「違うっ!!」
とてもチーム戦一位になったタッグの言葉とは思えないような会話。
だが、楽しげな会話は止まることを知らなかった。
今回は、4.『孤高の勇者』
時オカリンクもトワプリリンクもものすごく多彩で器用で、割と自分で何でも出来ちゃう人だと思います。
(人外能力は差し引いて)
でも、そんな自分を他人がどう見ているのかとかすごく内心気にしてて、ジレンマで悩んでそうです。
リンクはちょっぴり(人間関係において)不器用な所があると思います。
うちのリンクは基本男前すぎて一途すぎなので、フォックスに諫めてもらいました。
ちなみにうちのフォックスはすっごくナイーブでおまけに神経質な真面目ちゃんです。
血液型に置き換えると、
リンク:B、またはO型。
フォックス:A型
みたいな感じの性格になってます。
『Alone is unpleasant. 』
(もう、一人は・・・)
「てやあああああっ!!」
リンクの回転斬りがクリーンヒットしたと同時に他のライバルはみんなまとめてスタジアムからはじき飛ばされてしまう。
『GAME SET!!』
試合終了を告げるアナウンス。
勝負は決まった、リンクの勝利だった。
「おめでとう、リンク」
戻ってきたリンクを、試合の一部始終をモニターで見ていたフォックスがねぎらう。
だが、リンクは困ったように少し笑うだけ。
いつもならもっと元気はつらつで喜ぶのに、フォックスは首を傾げた。
「リンク、どうかしたのか?」
「いや、なんでもない」
「ちょっと様子が変だ。具合でも悪いのか?」
「大丈夫だから、本当に・・・。心配しないでいいって」
「そうか・・・?」
釈然としないながらも、本人がいいと言っている以上フォックスには強く押し切ることは出来ない。
じゃあ、また後で。と、部屋を後にしたリンクの後ろ姿を黙って見送った。
リンクが出て行ってものの数秒後、部屋の外から何かが崩れ落ちたような音が聞こえた。
廊下を歩いていたファイターの誰かが騒ぐ声がする。
(まさか・・・)
嫌な予感を感じてフォックスは部屋を出た。
さっき廊下に出たばかりのリンクがその場に倒れていた。
「リンク!!」
「風邪、だね。しかし、リンクもよくこんな悪化するまで我慢していたものだよ」
医務室に運び込んだリンクは顔に汗を浮かべながら眠っている。
医学の知識があったマリオが診てくれたお陰で少しは容態は持ち直したようだった。
大して心配するほどの事じゃない、と教えられてフォックスはほっと胸をなで下ろした。
「よかった・・・。いきなり倒れたから、悪い病気なんじゃないかと思ってた」
「でも、こんな体でよくさっきまで大乱闘に出られたものだ。相当苦しいはずなのに・・・」
「・・・ですよね」
お見舞いしたいと言って聞かなかったピカチュウを撫でながらフォックスはリンクの寝顔を見つめた。
ここのところ数日、倒れたついさっきまでリンクは至っていつも通りに生活していた。
ピカチュウに遊んでとせがまれてもちゃんと相手もしていたし、カービィにオカリナをねだられても笑顔で応じていた。
そして、倒れる寸前まで話をしていたフォックスにさえもリンクは具合が悪いことを知らせなかった。
(調子悪いなら、無理しないで代理申請したらよかったのに・・・)
それとも、代理申請する相手もいなかったというのだろうか。
まさかそんなはずはないと思う。
でも・・・。
「リンク・・・」
新しく浮かんだ汗を拭きながらフォックスは眠っているリンクに話しかける。
「どうして、話してくれなかったんだよ。・・・俺たち、友達のはずだろ」
『やーい、妖精無し!!』
夢の中でリンクは子供の姿で故郷の森にいた。
コキリ族で唯一妖精を持っていなかったリンクはいつも仲間はずれにされた。
半人前と呼ばれて。
それはリンクがハイリア人である故だったのだが、そんなことを知らないリンクにとってこの一言は辛かった。
せめてみんなの役に立ちたいと、認められたいと思ってみんなの手伝いをしたり、言うことを聞いて素直にしていた。
『出来るよ。一人でも出来る。やってみせる』
何か頼まれたり、挑戦されたとき、リンクは決まって自信満々に答えた。
元々勇気のある子だったし、それに何より『半人前』と言われて必要とされなくなるのが怖かった。
だから、リンクは自分に課せられたことからは絶対に逃げたりしない。
自分に出来ることがあるならば、なんだって相手にしてあげる。
例えそれが他の誰にも受け入れられないものでも、理解されないとしても・・・。
(元々天涯孤独の俺は、誰かに必要としてもらえるだけでいい)
夢の中で呟いた声にリンクは現実に引き戻された。
最初、どこにいるのかがわからなかった。
気がつくと真っ白い薬品臭いシーツのベッドに寝かされていて、枕元のリンクの隣にはピカチュウが丸くなって眠っている。
窓から見える景色はすっかり暗い。
もう、夜になっているようだった。
「目、覚めたのか。リンク」
「フォックス・・・。俺・・・」
リンクの食料と飲み物を調達に行っていたフォックスはリンクの隣に腰を下ろす。
そして、リンクが倒れた後のいきさつを述べた。
「ピカチュウがどうしてもリンクが心配だから離れたくないっていうから、今夜は俺も様子見のためにここに泊まることにする。明日、大乱闘は非番だし」
「いいよ。俺一人で充分だ。フォックスもピカチュウも部屋に戻ってくれ。風邪がうつったら大事だろ」
そう言うリンクにフォックスの動きが止まった。
持ってきたリンゴを切ろうとしていたが、それに気がついたリンクがその手を遮って自分でやってしまう。
実際にフォックスがやるよりも器用でキレイに早く出来たリンゴをリンクはフォックスにも勧めた。
その様子にフォックスはため息を付く。
「どうした?」
「いや、なんだか、お見舞いに来ているはずが、逆に見舞われているような気がして・・・」
「気にするなよ。そんなこと、俺は大丈夫だからさ」
フォックスはその言葉にしっかりと頭を振る。
「リンクの『大丈夫』ほど当てにならない言葉はないな。倒れたときも、俺がその言葉を鵜呑みにしたせいで廊下で倒れる羽目になった」
「うっ・・・」
いたいところを付かれたリンクの顔が強ばった。
バツが悪そうに笑うリンクにフォックスは真剣そのものでリンクを見た。
「なあ、なんで頼ってくれないんだよ。リンクが一人で何でも出来て、それが人一倍うまくできることなんか俺でもわかる。でも、どうして本当に辛いときでも苦しいときでも我慢するんだよ!そんなに体がボロボロになりかけてたのに、どうして俺に代理頼んでくれなかったんだ!!」
「だって、それは俺の問題だろ。体壊したのも俺の問題なんだから、フォックスに肩代わりさせるなんて真似出来ないじゃないか」
「風邪なら仕方ないだろ!!リンクに頼まれたら、俺は喜んで代わったよ!!それよりも、一人で抱え込んで無茶して、倒れられたりなんかしたら俺の方が辛いじゃないか!!どうして気付いてやれなかったのかって、助けてあげられなかったって、友達なのに助けてあげられなかったって俺の方がずっとずっとたくさん後悔するだろ!!」
普段冷静で落ち着いたフォックスの語気が珍しく強くなる。
リンクは押し黙った。
「本当に友達だと思ってくれるなら、遠慮なく言えよ。辛いときは辛いって、苦しいときは苦しいって、それで良いじゃないか。リンクの方からしてもらってるばかりじゃ、俺、必要されていないみたいで嫌なんだ」
「・・・!!」
リンクはその言葉に思い出したように顔を上げた。
仲間から『半人前』と呼ばれなくなってからも、どこかしら消えなかった疎外感。
仲間はずれの感覚、親友のサリアでさえ『自分たちと違う』と言っていたその訳がようやく理解できた。
リンクは『孤独』から逃れるために努力をしたが、相手の為だけを考えて自分がどうなろうと気にしなかった。
完璧に、みんなに喜んでもらいたい。その姿勢は独りよがりな『孤高』。
だから、結局は親密な人間関係は築くことが出来なかった。
フォックスがこうして話してくれなかったら、今も、そしてこれからもずっと・・・。
「わかった。約束するよ、もう無茶はしないって」
「絶対だからな!!」
厳しい顔で釘を刺してきたフォックスにリンクは微笑って頷いた。
マリオが置いていった薬を飲んで横になる。
すると、薬の副作用のせいか瞼が徐々に重くなってきた。
食べたものの後始末をしようと立ち上がりかけたフォックスの後ろ、ジャケットの端にリンクは朦朧とした意識のまま手を伸ばす。
引き留められて振り返ったフォックスにリンクは初めて頼み事をした。
「寝付くまで、側にいてくれないか。さっき、嫌な夢見て、正直寝るのが怖いんだ」
まるで小さな子供のようなお願い事。
だが、フォックスは笑わずに差しのばされたリンクの手をしっかりと握りしめる。
「それくらいおやすいご用だ。ゆっくり休めよ、リンク」
「ああ・・・。フォックスの手、あたたかいな。これなら、熟睡できそうだ」
しばらく間を置かずにリンクの口から健やかな寝息が聞こえてきた。
リンクの寝顔は穏やかな、幸せな夢を見ているように安らかだった。
その夜、リンクはもう一度故郷の夢を見た。
一人必死に頑張っているリンクの姿、コキリの仲間は誰もリンクに声を掛けようとしない。
その背中にポンポンと優しくリンクの肩を触れる感触がした。
その手はとてもあたたかい。
振り返ったリンクの目の前にいたのは小さい頃のフォックス。
『手伝うよ。もう、リンク一人で頑張らなくていいよ』
友達だろ、と笑うフォックスにリンクの頬がほんのりと赤く染まる。
嬉しくて顔が笑み崩れていく。
そして、リンクは満面の笑顔で笑った。
『うんっ!!』
(タラリラッタラー♪:回復ファンファーレ)
39.0くらい熱あったので、親は「インフルエンザじゃないか?」と心配してましたが、さすがに一日で納まるはずないので、陰性=ただの風邪だったようです。
これからは気をつけます。m(_ _)m
本日は先日、尻切れトンボで終わってしまったスマブラ番外の後編です。
メタカビ←ダメタも早くUPしないと・・・。
・・・でも夏場にこんなあっついの書いたり読んだりしたら余計暑くなりそう;;;
『It is not possible to love even if it loves.』
(愛していても愛せない)
『非常事態発生、非常事態発生!!』
「何事だ!?」
「なんだ!!」
「一体何が!?」
城内に響き渡ったアナウンスにファイター達は全員飛び起きた。
間を置かずにマスターハンドからの通達がスピーカーを通じて告知される。
『城内にバグが逃亡!!ファイター達は各自安全な場所に避難しなさい!!』
「バグだって!?それがこの城に・・・」
マリオが信じられないように声をあげる。
マスターハンドから次の指令が続いた。
『バグの正体がわかった。影虫と同じ、コピー系のバグだ。取り憑かれたらバグを消去するのは厄介になる。皆、くれぐれも用心しなさい。繰り返す・・・』
「まずいな、このままじゃ・・・」
「マリオ、ピット達を連れてみんなを大広間に集めてくれ。バラバラになっているよりも一カ所に集まっていた方が安全だ。俺はこれからバグ対策のためにアイテム倉庫から強力な武器やアイテム取ってくる」
「わかった」
リンクの提案にマリオは頷いてピット達を大広間へ誘導し始めた。
采配は誰よりもマリオが行った方がファイターは従いやすい。
リンクは一人、アイテム倉庫へと足を進める。
すると、優勝常連のフォックス、キャプテンファルコン、メタナイトが途中で合流してきた。
皆考えることは一緒だったらしい。
他の優勝常連メンバーは大広間の警備に当たっているとの事だった。
アイテム倉庫へ向かいながらリンクはフォックスに尋ねる。
「フォックス、バグの行方は?」
「まだわからない。大広間に避難させたロボットがサムスと一緒に探してくれているけど、影虫と同じタイプだから見つかりにくいって」
「とりあえず、武器の確保が先だ。鍵はひとっ走りして取ってきた。急ぐぞ」
先頭に立って走り出したキャプテンファルコンに、フォックス、メタナイト、リンクは後に続いてアイテム倉庫への道を急いだ。
大広間には深夜にも関わらずマリオが集めたファイターが、アイテムを取りに行った四人以外全員が揃っていた。
ロボット、サムス、ウルフ、スネーク等メカに強い面々は必死にバグの行方を追っていた。だが、バグは想像以上にすばしっこく、神出鬼没で足取りが全く掴めない。
見守っているファイター達にも緊張の色が消えなかった。
「!!ミツカリマシタ!!ばぐニチガイアリマセン!!」
「本当か!?」
「ここじゃないよね!?」
「ロブ、奴はどこにいる!?」
ロボットがようやくバグの足取りを掴んだ。
矢継ぎ早に質問を浴びせるみんなの前に、ロボットは壁に城の地図を映し出す。
その図には城のフロア、ファイター一人一人の名前、そして赤く点滅している存在『バグ』が映っていた。
バグの移動経路は大広間から反対側へと向かっている。
徐々に下へ、城の端の部屋へと、そしてその延長線上にはアイテムを取りに行った四人のアイコンが映っていた。
「こいつは、まさか・・・!!しまった!!」
その映像を見たスネークは戦慄が走るのを感じた。
それを見たマリオも思わず身を乗り出して叫んだ。
「バグの狙いは私たちじゃない!!アイテムを取りに行くと想定されていた優秀なファイターだ!!」
その頃、アイテム倉庫の前にたどり着いた四人はファルコンが鍵を開けるのを待っていた。
フォックスのインカムにファルコから通信が入ったのはまさにその時だった。
「ファルコ。待っててくれ、今アイテム倉庫に着いたところだ。これから武器持ってそっちに・・・」
『そうじゃねえ!!フォックス、他の三人も気をつけろ!!バグがお前等狙って付けてきてやがる!!』
「なにっ!?」
「なんだって!?」
「なんだと!?」
ファルコの報せに他の三人に緊張が走る。
そして各自油断なく辺りを見渡すが、薄暗い廊下にそれらしい影は見つからない。
「どういう事なんだ、ファルコ!!」
『いいか?バグは想像以上に賢い奴だったらしい。騒ぎ起こしたらお前等みたいな腕利きがアイテム倉庫に行くって予測済みだったんだよ。影虫と同じタイプの奴だから、コピーするなら断然強い奴に取っ付きたかったんだろう。とにかく油断するな、奴はもうかなり近くまで・・・』
フォックスがファルコの通信に気を取られていたその時、リンクはフォックスの背後で微かに蠢くそれを見た。
それは気配を消しながらものすごい速さでフォックスの背後に迫ってくる。
だが、フォックスはその気配に気がつかない。
「フォックス、危ない!!逃げろ!!」
「えっ・・・?うわあっ!!」
フォックスが振り返ったと同時にバグがフォックスに狙いを定めて覆い被さるように飛びかかってきた。
咄嗟の事態に反応が遅れる。
いかに俊敏な動きを誇るフォックスといえども、至近距離から襲われてはひとたまりもない。
「フォックス!! っ!!うわあああああああああっ!!」
「つつ・・・、っ!!リンク!!」
フォックスを庇って咄嗟にその場に割り込んだのはリンクだった。
だが、今度は庇ったリンクにバグはまとわりつく。
苦しむリンクに思わず手を伸ばしかけたフォックスだが、それを止めたのは他でもないリンクだった。
「触るなフォックス!!こいつ、ただの、バグじゃない!!」
『・・・その通り』
リンクの中から低いくぐもった声が聞こえてきた。
バグはリンクから離れると、距離を置いて廊下の端へと移動する。
すぐさまバグに向かって構えたファルコンとメタナイトだが、そのバグの姿に目を疑った。
最初は影虫のような形状をしていたバグが徐々に人の形へと変化する。
輪郭がはっきりして、その姿、容姿、武器や出で立ちまで細かく表現されていく。
その場に現れたバグは、全身黒い影のような所を差し引けば、リンクと全く同じ出で立ちをしていた。
「こいつは・・・!!」
「さっきリンクに取り憑いたとき、リンクをコピーしたのか!!」
『ご名答、メタナイト。くくっ、最初はフォックスにしようかと思っていたが、思いも掛けない奴をコピーできた。まさか、こんなくそ真面目そうな奴にこれほど心の闇があったなんてな』
「なんだと!?お前、よくもリンクを!!」
バグに襲われて未だ体力が回復しきっていないリンクを支えながらフォックスが睨みつける。
思わずバグに挑みかかりかけたフォックスを制したのはメタナイトだった。
メタナイトはバグの目、赤く光るその目を睨みつける。
「なるほど、それがお前の力の源。人の悲しみや苦しみを糧に力を増すというのか、だから最初にフォックスを・・・」
『生真面目な奴ほど秘めている苦しみや苦悩は多い。だが、予想外の展開とはいえ、こいつの抱えている闇も大したものだ』
「外道が、貴様にバグなどという言葉は似合わん。闇(ダーク)そのものだ」
『・・・リンクの闇、ダークリンクか。それもいい』
メタナイトの指摘にバグ、『ダークリンク』はまんざらでもない表情を浮かべる。
そしてダークリンクはフォックスに支えられているオリジナル、リンクを見下ろした。
『お前の心の闇、確かに受け取った。その代わりと言ってはなんだが、お前の望み叶えてやろう。・・・あの姫君に抱いていたお前の抑圧した思いを』
「!!貴様、姫様に何を・・・」
ダークリンクの言葉にリンクは顔を上げる。
ダークリンクはその反応ににんまりと口元を釣り上げて笑った。
『それはお前が一番よく知っているはずだろ?リンク。本当は思ってたじゃないか、『姫様が誰にも触れず、誰も見ず、どこにも行かず、自分だけのものに』ってな。我慢ならないんだろう、他の男に取られることが、他の男と結ばれることが!』
「まさか、お前!!」
思いついた憶測にその場の全員に緊張が走る。
闇は心に秘めて然るもの、その欲望は表に出してはいけない。
だが、具現化されたその欲望の塊は止まることを知らない。
ダークリンクは凄絶に笑う。
その笑みは闇そのものだった。
『その望み、叶えてやるよ。手始めに、あの姫様から血祭りだ!!』
「ほざけっ!!そうはさせるかっ、ファルコンパンチ!!」
鷹の炎がダークリンクに襲いかかる。
だが、当たる刹那、ダークリンクの姿は元の影虫のような形状になって闇に溶け込んでしまった。
もはやその場にはダークリンクの姿はない。
ダークリンクの高笑いだけがその廊下に響き渡った。
「消えた・・・」
「まずいな、コピーしたとはいえバグだった頃の神出鬼没さは健在か」
「それよりも奴は一体どこへ・・・」
油断なく辺りを見渡すフォックスだが、ダークリンクの姿はどこにも見えない。
コピーされて弱っていたリンクがふらふらしたまま立ち上がる。
そして、アイテム倉庫の中にある、大広間へと続くワープゾーンに足を進めた。
「奴の狙いは、大広間の姫様だ。早く助けに行かないと・・・」
だが、足下がおぼつかないのかすぐに均衡を失ってうずくまってしまう。
その様子にフォックスとファルコンは駆け寄って支えた。
「無茶だ、リンク!!その体であいつと戦うなんて!!」
「俺のファルコンパンチさえ喰らわない奴だ。下手したら返り討ちだぞ!!」
「っ!!だけど・・・!!」
苦しさを耐えながら、リンクは一生懸命意識を保つ。
リンクの脳裏にゼルダの姿が浮かんだ。
絶対に守ると誓った大切な人、二度と危険な目に遭わせないと自分の心に誓った。
その心に偽りはない。
リンクは手にしたマスターソードを強く握りしめた。
「あれは俺の心の闇、俺の弱さが招いた心の具現だ。俺自身の手で片を付ける!!」
強く言い募られて、ファルコンもフォックスもそれ以上何も言えず押し黙る。
リンクは一度決めたらてこでも譲らない。その意志の強さは誰よりも強かった。
一人、その様子を離れて見ていたメタナイトが口を開いた。
「ならば、急いで先に戻れ。我々は武器を調達次第、急いで向かう。それまでに奴をなんとしても食い止めろ」
「・・・。わかった!!」
その言葉に後押しされるように、リンクはワープゾーンに足を踏み入れた。
リンクの姿は一瞬にして、アイテム倉庫から消えた。
その頃、大広間では大騒ぎだった。
バグのアイコンが消えたと思ったら、今度はリンクのアイコンが二つになった。
緑のアイコンと黒のアイコン、その場の様子が詳しくわからないファイター達の間に不安と恐怖が広がっていく。
「ロブ、どういう事なんだ!?何故、リンクが2人いる!?」
「カイセキチュウデス!!マッテクダサイ!!」
「おい、フォックス!!今どうなってるんだ!?・・・くそっ、妨害電波でつながらねえ!!」
「みんな、落ち着いて!!冷静になるんだよ!!」
パニックに陥りかけたみんなをマリオが必死で止めにかかる。
大広間の奥で身を潜めていたピーチも恐怖でぶるぶる震えている。
怯えているピーチを宥めるように側にいたゼルダがそっとその手を取った。
「大丈夫、安心してください。マリオが采配をしてくださっていますから、きっと助かります」
「・・・ゼルダは気丈ですのね。怖くないんですの?」
ピーチは信じられないようにゼルダの顔を見上げる。
ゼルダは落ち着き払っていつもと様子が少しも変わっていない。
名だたるファイター達、悪党であるクッパやガノンドロフでさえも急展開の現状にイライラしているというのに、ピーチにはゼルダが落ち着いていられる理由がわからなかった。
「怖くないと言ってしまえば嘘になりますけど、怖がっていても何も解決にはなりません。今できることは、武器を取りに行ったリンク達が戻ってくるのを待って、バグに備えることです。だから、きっと大丈夫ですよ」
辛いとき、逃げ出したくなったときこそ『大丈夫』と自分に言い聞かせて勇気を出す。
いつぞやゼルダがリンクから聞いた勇気を出すための秘訣。
その言葉に励まされたように、ピーチも頷いて少し明るい表情を浮かべた。
『・・・さすがはハイラル王家の姫君。殺し甲斐のあるお方だ』
「っ!!」
「ゼルダ!!」
ゼルダの背後に突然現れたダークリンクは闇色をしたマスターソードをゼルダに向けて振り下ろす。
咄嗟に振り返ったゼルダだが、勢いに乗った剣はまっすぐゼルダの体を捉えていた。
強襲にゼルダには対抗手段は見つからない。
側にいたピーチも思わず手で口を覆った。
ギインッ!!
切り裂かれる刹那、その場に割り込んだ剣がダークリンクの剣を受け止める。
ゼルダを庇うようにその場に立ちはだかったのは戻ってきたリンクだった。
「リンク!!」
『おや、オリジナルが何をするのやら。お前の望み、叶えたくないのか?』
「っ、姫様には、傷ひとつ負わせたりはしない!!姫様を守ることが、俺の望みだ!!」
『ほう・・・』
その言葉にダークリンクは愉快そうに眼を細める。
鍔迫り合い状態から軽々と飛び退くと、再び剣を構えた。
その視界に映っているのは、主君を守ろうと立ちふさがっている勇者の姿。
『面白い。・・・ならば、お前の全てを否定してやる』
そう言うが、ダークリンクはリンクに斬りかかる。
その場でリンクとダークリンクとの激しい攻防が始まった。
「これは、一体・・・」
マリオ達はその光景が信じられないように固唾をのんで見守っていた。
助太刀しようにも、密着状態で一方はゼルダを背後に守りながら戦っているから下手に手を出すと本物のリンクやゼルダを傷つけてしまう恐れがある。
一体何が起こっているのか、どうしたらいいのか。
迷っていると、ワープゾーンからアイテムを調達に行っていたファルコン、フォックス、メタナイトが戻ってきた。
「ちっ、もう始まっていたか!!」
「くそっ!!バグ、じゃなかった。ダークリンクの奴、手を出せないようにあんなに間合いを詰めて・・・」
「一体何があったんだい!?」
持ってきた武器を受け取りながらマリオは戻ってきた三人に詰め寄る。
他のファイターにも武器を渡しに行ったファルコンとフォックスに代わり、メタナイトがアイテム倉庫に向かう道すがらで起こったことをマリオに説明した。
「あれがバグの姿だ。奴はリンクの心の闇とその姿をコピーした、リンクの邪心の姿『ダークリンク』」
「ダーク・・・、リンク・・・?」
「奴は人の心の闇を糧に生きるバグだった。そして、より深い絶望と更なる破壊を繰り返し、世界の均衡を崩す。奴はリンクのゼルダ姫に対する思いと苦悩に目を付け、リンクもろとも彼女を殺すつもりだ!!」
「なんだって!!」
その言葉にマリオは戦っているリンクに視線を向ける。
防戦一方のリンクは明らかにダークリンクに押されている。
だが、決してその場から逃げ出そうとする素振りは見せない。
ダークリンクの攻撃を受けながらも、自身を盾として必死にゼルダを庇っていた。
「おまけに奴はバグだった頃の原型も忘れてはいない。攻撃を受けそうになれば、すぐさま形状を変えて逃げてしまう。リンクがゼルダ姫から離れないのは、それをした途端に奴が姫を襲うのが目に見えているからだ」
「リンク・・・」
マリオは黙ってリンクを見る。
いつ倒れたっておかしくない状態だった。
だが、リンクは絶対にゼルダから離れようとはしない。
絶対に守ると決めたリンクの信念がそうさせていた。
『俺は姫様の忠実な臣下』
昼間のリンクの言葉がマリオの脳裏に浮かぶ。
マリオはその言葉を振り払うように頭を振った。
「(君の思いは、そんな建前の言葉なんかで納められるものじゃないだろう・・・)」
「リンク!!もうやめて、やめてください!!それ以上やってはあなたの体が・・・」
リンクに庇われたままのゼルダが声をあげる。
いつもはゼルダの命令に忠実なリンクだが、この時ばかりは別だった。
傷だらけになってもなお、ゼルダから離れずダークリンクの攻撃からゼルダの身を守る。
荒くなった息混じりでゼルダに掛ける声は優しかった。
「大丈夫です、姫様。姫様は、僕が必ずお守りします。どうか、ご安心を・・・」
『笑止!!』
ダークリンクがその言葉を遮るようにゼルダに向けて突きを繰り出した。
そうはさせないとリンクは右腕を広げてゼルダを庇う。
黒いマスターソードはリンクの右肩を貫いていた。
「ぐうっ!!」
「リンク!!」
『ははは、大した忠誠心だな。だが、これでもう弓は使えないぞ』
これからなぶり殺してやる、とダークリンクは手にしたマスターソードを抜こうと力を加える。
ところが・・・。
『っ?』
リンクの右肩を貫いたマスターソードは刺さったままぴくりとも動かない。
訳がわからず戸惑っている間にリンクはダークリンクのマスターソードを右手でしっかりと握りしめた。
「・・・ようやく捕まえた。この状態じゃ、影虫みたいになって逃げることも出来ないだろ」
『!!まさか!!』
リンクの狙いを察したダークリンクに初めて焦りの表情が浮かぶ。
激痛に顔を蒼白にしながらも、リンクは不敵に笑う。
そしてダークリンクの背後、アイテムを調達してきたフォックスに頷いた。
それは、移動する前にあらかじめ決めておいた合図。
「受け取れ、リンク!!」
フォックスが投げたスマッシュボールはダークリンクの右端をすり抜けて、リンクの利き手、左手に飛ぶ。
マスターソードを振り下ろしたリンクの手に黄金の正三角、トライフォースが浮かび上がった。
それがダークリンクの最後に見た光景だった。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
トライフォースラッシュの止めの一閃で、ダークリンクは耳をつんざくほどの断末魔と共に消滅した。
大広間に差し込んできた夜明けの朝日がその場を明るく照らす。
闇は去った、リンクの勝利だった。
「・・・終わった」
「勝ったんだ!!」
緊張が解けたのと闇を撃退した勝利感に大広間が歓声に包まれる。
その様子を微笑んで見守りつつ、リンクはゼルダを振り返る。
ゼルダは怪我ひとつ負っている様子はない。
リンクはほっと胸をなで下ろした。
「・・・お怪我はありませんか?姫様」
「いいえ。リンクが庇ってくれたから、私は大丈夫です」
「そう、ですか。・・・よかった」
ほっと笑ったリンクはその一言を最後に、糸が切れたように力なくその場に倒れた。
数日後。
「もう大丈夫だって言ってるだろ!!」
「だめっ!!本当なら全治一ヶ月の重症患者だったんだから!!」
「ほら、リンク。主治医の言うことにちゃんと従って」
あの戦いの後、医務室に運ばれたリンクは瀕死の状態だった。
元々バグを取り逃がしたマスターハンドにも責任はあるとして、マスターハンドが干渉できる限りでリンクの治療に携わった。
お陰で、全治一ヶ月かかるところの怪我は驚異的な速さで回復した。
まだ傷跡は残っているが、動く分には何ら支障はないから早速大乱闘に復帰しようとしたリンクだが、それは主治医のドクターマリオが許さない。
お見舞いに訪れたフォックスの目の前で、押し問答が続いていた。
「これ以上寝てたら体が鈍る!!ずっと部屋空けているのも心配だし!!」
「何言ってるの!!そんなことより、体の方を心配するのが最優先だよ!!ピット達に心配かけさせないように全快するまで退室させないからね!!」
「そうだよ。カービィ達だってみんな面倒見てくれてるから大丈夫だって。何も心配することないよ」
今にも医務室から出てしまいそうなリンクを抑えながら、フォックスはドクターマリオと2人がかりでリンクをベッドに戻そうと必死だ。
コンコン
医務室をノックする音がしたと同時に、ドアが開いた。
やって来たのはゼルダだった。
その姿を見た途端にリンクの動きが止まる。
その間にドクターマリオが問答無用でリンクをベッドに押さえつけた。
「これはゼルダ姫。わざわざリンクのお見舞いに?」
「ええ。お邪魔でしたか?」
ゼルダの言葉にフォックスは笑いをかみ殺しながら首を振った。
そして、ベッドに押さえつけられたまま身動きできず呻いているリンクをちらっと振り返って、ゼルダに笑いかける。
「いいえ。ちょうど良いタイミングで来てくれましたよ。リンクがまた無茶して医務室から脱走しようとしていた所でしたから」
「あっ!!バカッ、フォックス!!姫様にそんなこと言うな!!」と、背後でリンクが喚いている声が聞こえた。
フォックスはその言葉を気にするわけでもなく、にっこり笑って続ける。
「俺も用事済んだし、そろそろ戻ります。ゼルダ姫、ごゆっくりしていってください」
「ああ。それじゃあ、私もそろそろ大乱闘のスケジュールがあるし、リンクの見張りと包帯の取り替えはゼルダ姫にお願いしようかな?」
フォックスに便乗して白衣を脱いだマリオも、抗議の声をあげるリンクを無視してフォックスの一緒にドアへと歩き出す。
「おい!!人の話ちゃんと聞けっ!!2人とも、待てったら!!」
「「では、ごゆっくり」」
その言葉を残してマリオとフォックスは医務室から出て行ってしまう。
その場に残されたのはリンクとゼルダの2人だけだった。
「あいつら・・・」
2人が立ち去った後をうらめしげにリンクは睨みつける。
ゼルダはベッドの側にある椅子に腰を下ろすと近くに置いてあった包帯に手を伸ばした。
「まだ、無茶をしてはいけませんよ。リンク。包帯、取り替えましょうか」
「ひ、姫様が!?」
「マリオに頼まれましたから」
ゼルダの言葉にリンクの目に剣呑な光が走る。
言われるがままに大人しくシャツを脱いだリンクだが、頭はそれと別の場所に及んでいた。
「(覚えてろよ、マリオ・・・)」
するすると古い包帯が取り払われていく感触がして、最後の一片が剥がれた。
包帯が全て取り払われると、その体に残った傷跡が生々しく曝される。
その光景にゼルダが息を詰める声がした。
すぐに新しい包帯が慣れた手つきでリンクの怪我に当てられて、巻かれていく。
巻き終わるのにものの数分もかからなかった。
そっ、とゼルダの手がリンクの怪我、特に一番深手だった右肩に触れる。
リンクはそのあたたかい感触に目をすがめた。
「ごめんなさい。私を守るために、こんな傷を負ってしまって・・・」
語尾が小さく震えている。
微かに肩越しに振り返る、ゼルダの美しい瞳から涙がこぼれていた。
思わず手を差し伸べそうになって、それが主君に触れる無礼だと気付きかけたリンクは手を潜める。
だが、この時不意にある言葉が思い浮かんだ。
『その短い命を惜しまずに後悔せず生きる方法を探せばいい』
あの日、メタナイトが言った言葉。
まるで彼自身にも言い聞かせていた様にも聞こえた。
しばらく迷ったリンクだが、一度は納めたその手をゼルダの頬に差し伸べて涙を拭いた。
「・・・姫様。あなた様が僕のために涙を流す必要などありませんよ。これは、この傷は姫様を悲しませてばかりいる僕への罰なんですから」
ダークリンクはリンクの抑圧された要求の具現。彼の心の闇そのもの。その弱い自分を切り伏せるためにも、リンクには多少の犠牲は必要だった。
「最初会ったときから、僕には不釣り合いだってわかってました。だけど、諦めきれなかった。その未練と心の弱さがあいつに、ダークになったんです」
建前に封印した自分の欲望は抑えきれずにダークの形で噴出した。
決まり・運命に流された臆病さがダークを抑え切れなかったのだ。
「だから、姫様が嘆かれる必要はありません」
きっぱりと言い切ったリンクの声音には迷いはなかった。
愛した人だから守りたかった、大事な人だから泣かせたくなかった、その心に偽りはない。
例え許されない思いだとしても、その思いを封印することをやめた。
ゼルダは涙を拭うと、居住まいを正してリンクに改まって声を掛ける。
「では、リンク。ひとつだけ、私の我が儘を聞いてもらってもよろしいですか?」
「何なりと」
リンクは素直に請け負う。
ゼルダの頬が微かに赤みを帯びて、ためらうように口元を手で覆う。
やがて覚悟を決めたのか、たどたどしいながらも言葉を紡いだ。
「せめて、この世界にいる間は、ハイラルの法律に縛られていないここでだけは・・・。王女としてではなく、『ゼルダ』として、あなたを、愛しても、良いですか・・・?」
うつむいたままのゼルダの手をリンクが掴んで引き寄せた。
咄嗟のことに驚いたゼルダが顔を上げる。
その一瞬の間を置かずに、ゼルダの唇はリンクによって塞がれていた。
まるでつむじ風のような唐突な口づけ。
女の子が望んだり夢見たりするようなロマンティックなキスシーンではない、朴訥すぎるほど素朴でストレートな愛情表現だった。
それは、紛れもないゼルダの我が儘に対する承諾の証。
昔日の溝を塞ぐように、重なり合わせた手と唇はしっかりとお互いを離さなかった。
なんで番外編って言いますと、喧嘩シリーズと銘打っておきながら、喧嘩らしい喧嘩シーンがないからです。
姫様には底抜けに甘いリンクだから、姫様がいくら怒っても喧嘩しかけてもすぐにニコニコして「ごめんなさい」で済ましてしまいそうなので・・・。
(結果、リンクの毒気無し笑顔&性格上の寛容さも相まってそれ以上怒れないと)
でも、本当にやっぱりゼル伝、リンゼル大好きなので、愛情に比例してものすごく長くなってしまいました;;
前半部分かなり長いので細かいところや書きたいところもかなり端折ったんですけど、それでも長い!!
実は今日の分でようやく半分です(ええー!!)
それでも最初予定していた長さの1/4の長さ。(どんだけ長いんだ)
リクエストがカビやスマブラが多いのも理由のひとつなんですけど、これだからなかなかゼル伝小説書けないんですよ;;
『It is not possible to love even if it loves.』
(愛していても愛せない)
「・・・・・これはどういう訳だ?」
いつもよりも二オクターブ近く低い声でリンクが話しかける。
リンクの目の前にいるマルス、ピーチ、デデデはリンクの纏うオーラにすくみ上がって身動きが取れない。
助けを求めるようにマルスがリンクの背後にいるゼルダに視線を泳がせる。
ゼルダは気遣わしげに何度もマルス達、そして側にいるリンクを交互に見ていた。
ゼルダの美しい目が伏せられる。
その表情は愁いをたたえていた。
話は数時間前に遡る。
元々のことの始まりは先日、城下で行われた結婚式だった。
梅雨が明けたばかりの一番爽やかな季節、どこから伝わったのかはもう誰も覚えていないが、この時期に結婚して結ばれた夫婦は幸せになれると言われている。
華やかなウエディングドレスに身を包んだ花嫁姿は女の子の永遠の憧れ。
それは女性ファイターも例外ではなく、女性陣は全員結婚式の観覧に繰り出していた。
しかし、一人だけ例外がいた。
「ゼルダ姫?どうしたの、みんなと行かなかったの?」
大乱闘後、部屋に戻ろうとしていたマルスの目に出かけていったピーチ達を見送るゼルダの姿が留まった。
ゼルダはマルスの言葉に困ったように笑う。
「ええ、私はあまり・・・」
「興味ないの?そんなはずないでしょう、相手いるのに」
もちろんマルスの言う相手とはリンクのこと。
先代もそうだったが、リンクとゼルダはすっかりマリオとピーチに並ぶおしどり夫婦で通っていてファイターが知らないはずはない。
だが、ゼルダはマルスの言葉にため息を付いた。
「・・・そうでしょうか?」
「リンクのこと、嫌いなの?」
意外な反応にマルスは目を丸くする。
ゼルダはマルスの言葉に首を振った。
「いいえ。そうではないんです、ただ・・・。彼は、私のことを、どう思っているのか」
ようやくマルスはゼルダの悩みが理解できた。
ゼルダはリンクに愛されているかどうか、自信が持てないらしい。
確かに、先代と比べると今のリンクはゼルダを愛していると言うよりもどちらかというとただ主君として崇め奉っているような所がある。
それで不安なのか、マルスは少し考え込むととっておきの提案をした。
「では、せっかくだから誘ってみたらどうかな。二人っきりでデートでもして、さりげなく聞いてみたらいいんだよ」
ちゃんとムードを盛り上げるためにバックアップするから、と請け負うマルスに従ってゼルダはリンクの対戦がない日を見つけて、庭園に出かけようと誘った。
もちろん、大事なゼルダの頼みをリンクが断るはずなく二言返事でOKを返した。
こっそり後からデートのプランニングを立てていたマルス、話を聞きつけてノリノリなピーチとプリン、ちょっかい出すのと裏工作が大好きなデデデがスポンサーになって2人のデートをプロデュースしていた。
ヘルパーとして他のファイター、フォックスやファルコ、アイクなどもアルバイトとして雇っていたが、4人が仕掛けたデートプランニングは全て自覚無しでリンクによって失敗に終わってしまった。
そして最後の大仕掛けの用意をしていたところ、さすがに怪しいと目を光らせていたリンクに見つかってしまったのだ。
『道理でおかしいと思ってみたら、お前等全員グルだったのか!!』
「あ、まずいね。さすがにリンクにばれたか・・・」
食堂のモニターにも今までの一部始終は全部配信されていた。
城に待機して見ていたファイター全員はうまくいかなかったことにため息を付いた。
興味津々で眺めていたマリオも難しい声をあげる。
さっき、一瞬だがリンクがカメラ目線で睨みつけていた様子が映っていた。
おそらく、帰ってきたらリンクに怒られることはまず間違いないだろう。
モニターにはその場の光景が中継されたまま、その場の様子が映し出されている。
「なるほど、フォックス達はバイトで首謀者はマルスって訳だ」
「・・・ごめん、リンク。手を貸したら5000コイン払ってくれるって話だったから」
リンクに追求されてフォックスはあっさり口を割った。
やはり、いくらバイトとはいえさすがに良心の呵責も多少感じていたらしい。
まるで自分が悪者であるかのように言われたマルスは面白くない。
むっとしてリンクに問い詰められる前に先に口火を切った。
「言っておくけどね!元はといえば君が発端なんだよ、リンク!!ゼルダ姫にガード堅くて男寄せ付けないくせに、君が彼女に何もしないってどういう了見なんだい!?」
「そうですわ!!マルスの言うとおり!女の子は愛されているって実感が大切ですのよ!!」
「プリッ!プリュプリュ、プリィプリィッ!!(そうよ、女の子は好きな人にたくさん好きって言ってもらいたい生き物なの!!)」
マルスを応援するようにピーチとプリンが一緒になって言い募る。
それが今回の一件の発端か、状況と事情が飲み込めたリンクは重くため息を付く。
そして、わかってないと言わんばかりにマルス達を見返した。
「言っておくけど、俺はハイラル王家に仕える勇者だ。ハイラル王家の君主であるゼルダ姫様をお守りするのは俺の役目、姫様を守るのは当然だけどそれとこれとは話が別だ」
「でも、ゼルダ姫は君のことをこんなに・・・」
思っているのに、何故そこまで頑なになる必要があるのか。マルスは思わず声を荒げる。
その言葉を遮ってリンクはひどく冷たい声音で言い放った。
「おかしな事を言うな、マルス。王子のお前がまさか、『王室典範』を知らないとでも言うんじゃないだろうな?」
「!!」
その言葉にマルスはびくりと身を引きつらせた。
ピーチ・プリン・デデデにとっては耳慣れない言葉なのか首を傾げている。
「王室、典範・・・?」
「プリュ?(それって?)」
「何ゾイ、それは・・・?」
「『王室典範』またの名を『皇室典範』とも言う。王家の決まり事、約束事をまとめたような法律みたいなものだよ。王家に生まれた人間は、その法律の定められたルールの中で生きて行かなくちゃ駄目なんだ」
キノコ王国やプププランドは平和な国だからいちいちそんな細かい決まり事などないのだろう、だがマルスの国にはそれが存在していた。
マルスも幼い頃からそれに縛られて窮屈な思いをしてきたからわかる。
くだらないメンツに固められた儀礼ばかりの王室、説明するだけでも行き詰まるような心地悪さがマルスの胸に込み上がってくる。
「その通り、特にハイラルは神の力が存在する国だ。ハイラル王家の女性はみんなお告げを聞く巫女だ。だから、王族は決められた血筋以外の者とは結ばれる事などあってはいけないんだ」
「「ええっ!!」」
あまりに残酷な法律にマルスとピーチが思わずゼルダの方を向いた。
ゼルダはその視線から逃れたくて仕方ないように、地面に視線を落としている。
リンクは王室に仕える騎士となんら変わらない地位、ゼルダと結ばれる運命にはない。
「おまけにハイラル王家は王女一人しか生まれにくい。姫様は唯一の王位継承者、王家を存続させるためにも、れっきとした相手を娶る必要がある」
「でも、リンク!!あなたの気持ちは?ゼルダの気持ちはどうなるの!?」
ピーチの言葉にリンクは眉を潜める。
ピーチはうつむいたゼルダとリンクを見比べながら続ける。
「確かにデートは私たちが仕組みましたけど、あなたもゼルダもとても楽しそうだったじゃないですの!!本当に幸せそうだったのに、嬉しそうだったのに、それなのにそんな法律なんかで全部ぶち壊しにされるなんて・・・」
ピーチ達は今までのデートの光景をずっと見守っていた。
デートハプニングは失敗に終わったが、それでもリンクもゼルダもとても嬉しそうに笑っていて心の底から一緒にいられるのを喜んでいるように見えた。
それがとても建前の法律なんかでぶち壊されて良いようなものには見えなかった。
ピーチの言葉にリンクは一瞬言葉に詰まる。
ほんの微かにゼルダを振り返ったが、拳を握りしめると目をすがめてゆっくりとカラカラになりかけた口を開く。
「むっ!!これは・・・、いかん!!まずい!!」
「メタナイト卿?」
モニターを見ていたメタナイトが思わず身を乗り出した。
その場で反応したのはメタナイトだけ、側にいたピットはメタナイトが焦った理由がわからず首を傾げた。
メタナイトはサムスに振り返った。
「サムス!!急いで、現場の誰でもいい。リンクを止めるように伝えてくれ!!」
「一体どうして?わざわざそんなことを?」
「早く!!私の推測が正しければ、リンクはゼルダ姫をひどく傷つける事になってしまう!!」
あまりに恐ろしい話にサムスはとりあえず、フォックスに連絡を入れようとした。
フォックスに繋がるその一瞬、モニターの向こうのリンクが声に出して言い放った。
それはメタナイトが想像したとおり、一番ゼルダに聞かれることを恐れていた冷たい一言だった。
『俺は、姫様の忠実な臣下。姫様がお望みとあれば、喜んでお受けする』
「!!!」
この一言にその様子を見ていたファイター全員が固まった。
一人、この展開を予想していたメタナイトは嘆かわしげに頭を抱える。
「(リンクの奴・・・、よりによってこのタイミングで『剣士の建前』を持ち出すとは・・・)」
そう言うメタナイトもデデデに仕えている立場上、この手の言い逃れ・弁明を使ったことがある。
だが、それは取り立てて忠誠心を持ち合わせていないデデデに対してだから言えたこと。
リンクのように、忠誠以上の心を抱いている相手に対しては絶対に使ってはならない言葉だった。
「リンクっ!!君・・・」
「本気で言っているんですの!?そんな、あなた・・・!!」
激昂しかけたマルスとピーチが思わずリンクに詰め寄る。
だが、それを間に入って止めたのは他でもない、ゼルダだった。
「・・・いいんです、2人とも。リンクは何も間違ってはいない。私が無理なお願いをしたのがいけなかったのです。私が、王家から離れて開放感に浸っていたから」
「ゼルダ姫・・・、でも・・・」
言いかけたマルスを遮ってゼルダは首を振る。
そしてリンクに向き直ると、いつものように笑顔を向ける。
「ありがとう、リンク。今日は私に付き合ってくださって、とても楽しい一日でした。・・・今度からは、度を過ぎないよう、気をつけますね」
帰りましょう、と先だって歩き始めたゼルダは一度も振り返らなかった。
その場に残って練習を続けると言って聞かないリンクを残して、作戦が失敗に終わったマルス達はゼルダの後を追うしかなかった。
「信じられない!!リンクったら、あんな事言うなんて!!ゼルダも見限ればいいのに!!」
「まあまあ、ピーチ姫、そうかっかせず・・・」
城に戻ってきたピーチは怒りも露わにマリオに愚痴をぶちまける。
ちなみにそれはピーチに限ったことでもなく、今回の一件はファイター達の間で持ちきりだった。
ピーチのように女性の間ではリンクを批判する声が上がっているが、中にはリンクの姿勢を色香に惑わされずあっぱれと褒める声と賛否両論別れている。
マリオは肯定派でも批判派でもないが、これには難しい声をあげた。
「(でも、リンクも辛いんだろうな・・・)」
リンクの話が本当なら、近い将来リンクはゼルダの側に仕えながら彼女が他の誰かに嫁ぐのを黙って見守らなくてはいけないのだ。
自分の恋心はひた隠ししたまま、口に出すことも許されず、見守ることしかできない。
それがどれほど辛いことなのか、マリオは想像するのに難くなかった。
「(私がリンクの立場なら、とても我慢できるものではないだろうな・・・)」
そう思いを巡らせながら、マリオはまだ帰ってきていない、普段リンクが愛用している椅子を見下ろした。
リンクは城のすぐ側にある練兵場で剣を振るっていた。
傍らに立っているトレーニング用の柱は既にボロボロになっている。
止めの一閃で柱は真っ二つに割れた。
目標を失ったリンクは剣線を下げて、乱れた呼吸を整えた。
「はあ・・・、はあ・・・、はあ・・・」
「・・・・・剣に打ち込んで迷いは消えたか?」
不意にリンクの頭上から振ってきた言葉、リンクはその声に顔をしかめると背後を振り返る。
練兵場の城壁の上、そこからリンクを見下ろしていたメタナイトにリンクは眉間の彫りを深くした。
「・・・何しに来た?」
「別に、ただの様子見に」
「嘘付くな。どうせモニターで全部見ていたんだろう。だったらわかってるはずだ、俺は姫様の・・・」
「忠実な臣下、か・・・。その一言で果たして納められるかな?」
メタナイトの言葉にリンクの目つきが殺気を帯びたものに変わる。
メタナイトがその場から飛び降りたと同時に、メタナイトのいた場所に矢が通り抜けた。
練兵場に降り立ったメタナイトは弓を手にしたリンクを振り返る。
そしてふっと微笑を漏らした。
「図星か・・・」
「うるさい!!お前に何がわかる!!運命に縛られて、大切な人と引き離されて、自分の力ではどうすることも出来ない!!その苦しさが、その辛さが、お前なんかにわかるって言うのか!?」
メタナイトは静かにリンクを見返す。
リンクも苦渋を味わったのだろう、そしてどうしても届かない思いとその役目に挟まれて悩み苦しんだに違いない。
メタナイトも気の遠くなるほどの年月を生きてきた。
その中で後悔したこと、悩み苦しんだこと、リンクと同じような悩みを抱えたこともあった。
「さあ?それは私の語るところではないが、ひとつだけ言えるとしたら、お前はその答えに納得できたのかどうかだ」
「!!」
この言葉にリンクは弾かれたように顔を上げる。
メタナイトはその様子に頷いて、踵を返す。
「所詮百年も満たずに命果てる種族だ。ならば、その短い命を惜しまずに後悔せず生きる方法を探せばいい」
「・・・・・お前は、今も後悔しているのか」
リンクの言葉にメタナイトは微かに振り返りかけた。
リンクには確信があったが、メタナイトはすぐに一笑に付すとそのまま去っていってしまう。
「なんのことかな?」
そう言い残した声の余韻は、夜風に攫われるように悲しく消えていった。
深夜、世界の管理をしているマスターハンドは異様な気配を感じ取った。
亜空は消え去ったはずだが、夜の闇に紛れて何かが潜んでいる。
正体を突き止めようとしたマスターハンドの様子に気がついたのだろう。
それはマスターハンドの手をすり抜け、一目散にファイター達の居住する城に向かった。
ほんの一部光に照らされて、その実態が露わになる。
黒く、なんの形も持たないスライムのような実像のない姿。
マスターハンドはそれに見覚えがあった。
「しまった!!バグだ!!」
この世界のガン細胞とも言うべき存在、それがファイターに取り憑いたりしたら大変な騒ぎになる。
マスターハンドは急いで警鐘を鳴らした。
to be continued...
父の日ネタで書き上げました。
母の日はカビ、もといメタ中心でしたが、父の日は絶対にフォックスでしょう☆
そんな訳で父の日題材で書かせていただきました。
こっちはちゃんと明確なストーリーがあるので小説にしづらいです。
切なさ、悲しさ満載のフォックスのお父さんエピソードですが、過去にこんな思い出があったらいいです。
子狐フォックスを書くのは楽しかったです。かわゆすぎ・・・。
でも、レグは本当にリンクとフォックスのコンビが好きだなあ;;;
ファルコ涙目・・・。
『Scenery is higher than the sky.』
(空より高いその景色)
夕暮れになって遊んでいた子供達を親たちが迎えに来た。
一人、また一人、と遊んでいた公園から子供がいなくなっていく。
夜の帷が殆ど降りて、公園の街灯がほのかに明るくなった頃には夕日の灯りはほんの僅かしかない。
迎えがまだ来ずに、一人残ってブランコに腰掛けていた子供は心細げに夕闇に視線を向ける。
心細さに涙ぐみそうになったとき、その子の耳に少し乱れた息づかいとその子の名前を呼ぶ声がした。
あたたかくてほっとする声に子供は顔を上げる。
迎えに来たその大人は決まり悪そうに微笑みながら、可愛い我が子の頭を撫でた。
子供は迎えに来た親に喜んでブランコから降りて抱きついた。
その仕草にその人は嬉しそうに笑って、その子を抱え上げる。
乗せてもらった肩の上は子供の大のお気に入り。
いつもよりも高い景色、その視界には一番星が輝いていた。
「・・・とう、さん」
おぼろげに目を開いたフォックスの目に飛び込んできたのは見慣れた自分の部屋。
窓の外を見ると、朝日が差し込んできている。
そこはいつもの大乱闘の世界が広がっていた。
時間を確認すると朝六時にはまだ少し早いくらいの時間だった。
日付は六月の、第三日曜日・・・。
その日付にフォックスは頭を枕に沈めながら、深く息をついた。
再び眠気が戻ってきてフォックスの瞼が徐々に下がってくる。
怠慢な眠気に身を委ねながらフォックスは昔に思いを馳せる。
(もう、そんな時期になっていたんだ・・・)
その日は梅雨の間の快晴だった。
せっかくの晴れの日曜日、最近長雨で気鬱だったファイター達に特別ボーナスとしてマスターハンドはこの日は大乱闘を休みに決めた。
久々の晴れの日、ファイター達は思い思いに休日を楽しんでいた。
リンクも久しぶりに城の近くを流れる川に浮き釣りに来ていた。
長雨中は川が増水して釣りなど危険で出来ない。
梅雨の時期が過ぎると、流れに乗ってやって来たそれまで見たこともないような大物が釣れることがある。
急流を好むパイクがその日も面白いくらい釣れた。
(晩ご飯のおかずはこれで困らないな)
大漁の魚にカービィやヨッシーが喜ぶ様子が目に浮かぶ。
リンクは釣り餌が無くなったのを確認すると、新しい釣り餌を探そうと立ち上がった。
蜂の巣が無いか顔を上げたリンクの視界に見慣れた姿が映った。
「フォックス・・・」
フォックスは一人、川辺の道を歩いていた。その手には幾つかに束ねられた花が握られている。
フォックスは土手にいたリンクに気付く様子もなく、その場を通り過ぎていってしまう。
いつもと違う様子の親友に、リンクは気になって釣り道具を片付けると後を追った。
フォックスがたどり着いた先は海岸の断崖絶壁の上、崖の先だった。
崖の先には旧式のブラスターが地面に突き刺してあり、トリガー部分には黒いサングラスがかけられている。
フォックスは持ってきた花をブラスターの前に供えた。
潮風が吹いて、備えられた花が風に揺れる。
潮騒の音を聞きながら、フォックスはしばし、その場に黙って立ちつくしていた。
コトン
小さく物が置かれる音にフォックスは我に返った。
ブラスターの前にはフォックスが備えた花の隣に袋に包んだ食料と飲み物の入った瓶が置かれている。
すぐ側にはいつの間にいたのか、リンクが手を合わせていた。
「リンク・・・」
「気になったから付いてきたんだ。これは、俺からの手向けだ」
「・・・そうか、ありがとう」
フォックスの言葉に頷いてリンクはブラスターを見る。
マスターソードのように静かに安置された武器、それが何を意味しているのかリンクにはすぐに飲み込めた。
そして、それがどれほど大事なものかはフォックスの様子が余すことなく語ってくれる。
「・・・大事な、人だったんだな。フォックスにとって」
「父さんだよ。俺の唯一の肉親だった・・・」
フォックスはブラスターにかけてあったサングラスを手に取った。
フレームの付け根部分にJ.Mのイニシャルが刻印されている。
フォックスはその文字にまだ本来の持ち主の体温が残っているかのように撫でさする。
「ジェームズ・マクラウド。初代遊撃隊のリーダーで、パイロットとしても優秀で、正義感も強くて、それでいて優しい自慢の父さんだった」
遊撃隊は実力と成績が物を言うシビアな世界。
その厳しい環境で生き抜き、誇り高く生きていた父・ジェームズは幼いフォックスの目から見ても憧れた。
いつか父のようになりたい、あんな風になりたい、そう思い続けていたフォックスが士官学校を選んでパイロットを目指したのも無理ない話だった。
そして、フォックスが成長して卒業を間近に控えた頃、あの事件が起きた。
「でも、父さんは・・・。俺がパイロットになる前に、死んだ。信頼してた仲間に、裏切られたんだ。親代わりになったペッピーが教えてくれた・・・」
その時の様子はフォックスの記憶に鮮明に残っている。
ペッピーは瀕死に近い状態で命からがら逃げ帰ってきた。
にわかに父の死を信じられなかったフォックスだが、それが嘘ではないことがペッピーの状態と苦渋に満ちた涙が語っていた。
フォックスの手には渡す人がいなくなった新しいブラスターだけが残された。
「・・・皮肉だよな。父さんが亡くなった日、父の日に俺が初めてプレゼントしようとした物が、こうして墓標になるなんてさ」
フォックスの脳裏に今朝の夢の光景が蘇る。
仕事柄、あまり一緒にいられる時間は元々少なかった。
それでも仕事が終わると真っ先にフォックスの所に帰ってきてくれて、肩車をしてくれた。
少し乱れていた息は出来る限り急いで駆けつけてくれた証拠だった。
『ぼく、大きくなったら父さんみたいなパイロットになるんだ。それで、ぼくが父さんを手伝ってあげるね』
肩車してもらいながら、フォックスが初めてジェームズに話した夢。
ジェームズは息子の言葉に優しく笑って答えてくれた。
『だったら、大きくならないとな。父さんよりも・・・』
『うん!!』
きっと、その日が来たときはフォックスの目には今の、肩車をしてもらっている時の景色が当たり前のように見えるのだろう。
幼いフォックスはずっとその日を夢見ていた。
だが、その子供の夢は、無情にもフォックスのあずかり知らぬ所で奪われた。
普段は考えないように、リーダーとして弱みを見せないように頑張っているが、それでもこの時期になるとやはり悲しい。
せめてこの日だけは、ファルコや仲間とも離れて一人でいたかった。
「・・・いいな。フォックスは父さんとの思い出、たくさん持ってるんだ」
「!!」
リンクは遠く、水平線の向こうを眺めている。
海と同じ色をした瞳は、どこか遙か遠い場所を捉えているようだった。
「俺は、父さんの記憶も母さんの記憶もないんだ」
「えっ!?」
意外な一言にフォックスは目を見開いてリンクを見る。
嘘かと思ったが、リンクはそれを察したように困ったように苦笑いする。
そしてばつが悪そうに前髪を掻いた。
「物心付いた頃には、俺は村長の家で世話になってた。家持って自立したのは十歳くらいの頃だった。母さんは俺を産んで体壊したって、父さんはガーディアンとして王家に仕えていたけど、戦乱に巻き込まれて戦死したって聞かされたよ」
リンクの脳裏に独り立ちを初めて間もない頃の光景が浮かんでくる。
その年はいろんな家で新しい命が多く生まれた。
幼いリンクは自分で生活するため、今まで育ててもらった恩を返すためにも率先して子守をして大人達の役に立っていた。
幼なじみのイリアも手伝ってはくれたが、それでも彼女も夕暮れになると父親である村長が迎えに来てくれる。お守りをしていた子供達も親が引き取りに来ると、リンクはいつも一人で家に帰るしかなかった。
成長して剣や乗馬の腕を「父親譲りの腕前だ」と褒められても、リンクは父親を知らない。肉親のはずなのに、全く知らないことが天涯孤独な身の上を表しているようで切なかった。
「だから俺、親父が死んだ日も知らないし、フォックスみたいに墓参りしたこともないんだ」
『薄情な奴だろ?』と問いかけたリンクにフォックスは慌てて頭を振る。
実際、リンクの単独行動さと実力主義的な考え方に多少どういう育ち方をしていたのか疑問に思っていたフォックスだが、それなら頷ける。
リンクは無理するな、と声をかけてそれからまたその景色に視線を向ける。
「でも、今はそれ程寂しくないんだ。ここにはみんながいるし、何よりみんな一緒に生活してる。経験がない俺が言うのも変な話だけど、『こういうのが、家族って言うのかな』って思うんだ。そう思うと親父のこと知らない俺でもすごく懐かしくなる。俺がここが大切なように、親父も俺のこと大事に思ってくれてたのかなって思うと嬉しく感じるんだ」
だからまた元気出せ、とリンクは笑ってフォックスの肩を叩く。
そして、今度は海釣りを始めようとリンクは絶壁を降りて波打ち際まで移動し始めた。
その場に一人残されたフォックスは手にしたままのサングラスに目を落とす。
しばらく眺めていたが柔らかく微笑むと、頷いてブラスターの所に戻した。
フォックスの脳裏に父・ジェームズと過ごした日が走馬燈のように蘇る。
心配されたこと、教えてもらったこと、大事なこと、それらを思い浮かべてフォックスは空を見上げた。
澄み渡った綺麗な大きい空、その景色はいつか肩車してもらったときに見た景色と同じだった。
(もう、泣かないよ・・・。俺は大きくなったから、大事な仲間がいるから、一人前になったから安心して。
父さん・・・)
踵を返しかけたフォックスの耳にリンクの慌てた声が届いた。
どうやら大物がかかったらしい、今にも引きずり込まれそうなくらい釣り糸が張り詰めていてリンクが顔を赤くして足を踏ん張っている。
それを見たフォックスは慌てて助太刀をすべく、リンクの元に急ぐ。
供えた花束が潮風に揺れた。
友人→恋人と来ましたのでもう一度友人同士の喧嘩にローテーション。
仲良し二組目はマザー組、ネスリュカです。
本当は最初にUPしようと思っていたのですが、当時ファルフォにはまっていたもので・・・;;;
『亜空の使者』でネスとリュカの仲良し度、絆の深さは本当に感動☆
そんな二人だからこそ喧嘩したとき、どうやって仲直りするかが見たかったのです。
でも、やっぱり子供なので子供らしく喧嘩して、子供らしく仲直りしてもらいました。
『亜空の使者』連載の時はリュカにスポット当てていたので、今回はネスにスポットを当てました。
デデデの旦那が粋です。
ゲーム版のデデデは、ワガママ勝手だけどどこか一番大事なところは踏まえていて、表には出さなくてもちゃんとそれを実行している『粋』が似合う人だと思います。
でも、アニメ版のワガママ大王な演出も捨てがたいのでスマブラのデデデはミックスさせてもらいました。
『If,Fights of friends case:ness&lucas』
(仲良し同士が喧嘩をしたら、ネスとリュカの場合)
「・・・ただいま」
通称:レジスタンスチームと呼ばれている、亜空の件で本隊と別れて行動を取っていたデデデ、ルイージ、ネスの三人は城の同じ部屋で生活している。
いつものように遊びに行ってチームルームに戻ってきたネスの声に大乱闘も休みで、いつものようにデデデのご機嫌取りをしていたルイージはそそくさとまめまめしく出迎える。
「お帰り、ネス。野球は楽しかったかい・・・。ネス!?」
ルイージは戻ってきたネスの姿に悲鳴を上げる。
その声に椅子にどっかり腰掛けたまま、椅子のツイスター機能でデデデも出てきた。
「ネスがどうしたゾイ?んがっ!?その怪我は何ゾイ!?」
「・・・別に、何でも無いよ」
「なんでもないはず無いゾイ!!そんな嘘がワシに通用すると思ったか!?」
「デデデ陛下の言うとおりだよ、ネス。どう見たって普通の怪我じゃないじゃないか。」
ネスの言い訳にデデデもルイージも必死に言いつのる。
帰ってきたネスは顔や足などあちこちに怪我をしている。
子供には怪我は付きものだし、デデデは放任主義で、ルイージはネスと長い付き合いだからもう慣れている。今更二人はネスが怪我して帰ってきても目くじらを立てたりはしない。
しかし、今回の怪我は明らかにどう見ても普通の怪我ではなかった。
足に至る所に出来た青あざ、頬の周りにあるひっかき傷、顔にももちろん痣が残っている。
これは普通に遊んでいて出来る類の怪我ではない。
「もしかして・・・、誰かと喧嘩したの?そうなんだね?」
「・・・・・」
ルイージの言葉にネスはきゅっと口をつぐんだ。
ぐっと言い出すのを我慢するように握り拳を強く閉める。
決して口には出すまいとしているようだ。
「くそっーーーーーーー!!うちの可愛いネスに怪我をさせる不届き者め!!ネスに代わってワシが成敗するゾイ!!ワドルディ共、ワシの駕籠を持てぃ!!ワドルドゥはネスを怪我させた下手人を捜すゾイ!!」
「で、デデデ陛下!それはご無体な!!陛下が相手にしたら、相手はひとたまりもないでしょう!!」
「黙れ、ルイージ!目にはコンタクト、歯には詰め物ゾイ!!」
「それも言うなら『目には目を 歯には歯を』ですよ!!」
ハンマーを振りかぶってネスを怪我させた相手をたこ殴りにする気満々のデデデにルイージは慌てて止めに入る。
だが、ひ弱なルイージ一人で巨漢のデデデを到底抑えきれない。
本気で出向く勢いのデデデに思わずネスも止めに入った。
「やめてよ、デデデ大王!お願いだから、デデデ大王が本気を出したら相手がやられちゃう!!」
「ネスを怪我させた下手人はワシに対する反逆ゾイ!反乱分子は今のうちにつみ取るゾイ!!」
「リュカにひどいことしたら、ぼく、デデデ大王の事嫌いになるからね!!」
ネスの言葉に散々暴れ回っていたデデデ、それを止めようとしていたルイージの動きが止まった。
ネスは慌てて口を押さえるが、後の祭り。
デデデとルイージは唖然としてネスを見ている。ごまかしは利きそうになかった。
「今、なんて言ったゾイ・・・?」
「まさか・・・、ネスの喧嘩の相手は、リュカ・・・?」
「・・・・・うん」
ネスは重々しく頷いた。
今日もネスとリュカ、トゥーンリンク、ヨッシー、カービィ、ピカチュウで一緒になって野球をして遊んでいた。
喧嘩の原因は本当に些細なことだった。
今回負けたのはネス達のチーム、敗因はリュカのエラー連発のせいだった。
「気にしないで、またやろうよ。リュカ」
ネスは気さくにリュカに声を掛けて、励ますようにリュカの肩を叩く。
だが、リュカはネスの手を払いのけた。
「無理してそんなこと言わないでよ!!そんなこと、思ってもいないくせに!!」
「リュカ?どうしたの?」
「本当はネスはボクのこと、期待なんかしてないんでしょ!?もういいよ!ボクもう野球なんかしない!!」
「なんでそんなこと言うの?ぼくはそんなこと少しも思ってないし、みんなで遊んだ方が楽しいじゃない」
「いやだよ!!ボクどうせ弱いし、ボクが入ったチームは負けちゃうもん!!ネスもトゥーンも本当はボクなんかいない方が良いって思ってるんでしょ!?」
「リュカ、いい加減にしなよ!!ぼくのことはいくらでも好きに言っていいけど、トゥーンにまで当たるなんてひどいよ!!」
トゥーンに謝って、とリュカに薦めたネスだが、リュカはだだっ子のように喚いてネスを突き飛ばした。
これにはさすがのネスも我慢の限界だった。
その場で二人、取っ組み合いが始まり、喧嘩に困ったカービィとピカチュウがリンクとフォックスを連れてくるまでに、二人とも怪我だらけになっていた。
(ははあ、つまり、リュカのコンプレックスにネスは気がつかないで触れてしまったわけだ・・・)
思い当たる節にルイージは頷いた。
優秀な兄・マリオに憧れつつも、劣等感を感じていたルイージはリュカの気持ちがよくわかった。
頑張っても報われないジレンマと、次点で自信が持てないが故の劣等感。
リュカにとってネスは憧れで尊敬する対象でもあるのだが、いつかそうなりたい理想でもある。だから、一方的にフォローされるのが自分の未熟さの証明でもあるようで、リュカは自分に猛烈に腹を立てていたのだ。
それがたまたまネスに八つ当たりという形で現れたに過ぎない。
「まあ、ネス。よくある話だよ、僕だって兄さんと小さい頃からよくそんな小さな事で喧嘩してたし・・・。すぐに謝って仲直りしたら良いじゃないか、ね?」
「・・・・・」
ルイージの言葉にネスはぐっと口元を引き締めて首を振った。
僕は悪くない、だから謝らない。そう言いたいのだろう。
「じゃあ、僕がリュカの所に行って話を・・・」
「・・・いい」
ネスはもう一度首を振ると広間を横切って自分の部屋に閉じこもってしまった。
引き留めることも出来ず、為す術無くネスの後ろ姿を見送っていたルイージにデデデのげんこつが飛んだ。
「この、バカもん!!子供とはいえ男の喧嘩に首突っ込んでネスが喜ぶはず無いゾイ!!」
「でもデデデ陛下・・・。あんなに仲良い二人なのに、かわいそうで・・・」
ネスもリュカも同じPSI能力者同士で二人とも男兄弟がいない。
そのせいか、共感するところが多いらしくまるで本当の兄弟の様に仲が良い。
本当に兄弟がいるルイージの目から見ても、二人の仲の良さは微笑ましいくらいだった。
ネスはしっかりしているからルイージとデデデを前にしてもいつも通り心配させないよう何ともないように振る舞っていた。
しかし、本当は必死で泣き出すのを我慢していたのだろう。
時折、目元が潤んで頬が赤くなっていた。
それを思い出すとネスがどれほど傷ついているのか容易に想像できてしまって、ルイージとしてはネスがかわいそうで仕方なくなってしまう。
そう言いながら沈んだ表情を浮かべるルイージにデデデはばかばかしいと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「ふん!!男の喧嘩は周りがいくら心配しても納まらんゾイ!当人同士が解決しないと意味無いゾイ」
「じゃあ、ネスをあのまま放っておくつもりで?」
ルイージはデデデの言葉に信じられないように目を見開く。
これにはデデデも難しい声を上げた。
「・・・こういうのは好かんが、ネスが落ち込むのを見るのは嫌ゾイ。よし!こうなったらワシが可愛いネスのためにひと肌脱ぐゾイ!!」
そう言うなり、デデデは自分の部屋へと椅子ごと向かう。
ルイージも後に続いた。
デデデは椅子に設置されたボタンの一つを押す。
すると部屋の仕組み、特大モニターが壁から出てきて画面が映った。
画面に映ったのはこの世界の管理人・普段異空間に存在してファイターともコンタクトが滅多に取れないマスターハンドだった。
亜空の一件でデデデは自分こそがこの世界を救い、マスターハンドを解放した本当の功労者だと言い募っている。
結果的にデデデに大きな借りを作ってしまったマスターハンドはこうしてことあるごとにいつもデデデに無茶なワガママと要求を突きつけられていた。
ちなみにファイターで乱闘以外にマスターハンドとコンタクトを取れるのはデデデだけ。
案の定、モニターに現れたマスターハンドはデデデの姿にうんざりした仕草をする。
『ああ、また君かいデデデ。それで?今度は私に何をさせるつもり?』
「まあそう嫌そうに言うでないゾイ、マスターハンド。今回はいつもよりマシな頼みゾイ。お前にとっても損はないし、ちょっとした楽しみにもなるゾイ」
『?』
「実はな・・・。ごにょごにょごにょ・・・」
デデデは側にいるルイージにも聞こえないようにマスターハンドに囁きかける。
最初は気乗りしないように耳を傾けていたマスターハンドだが、話を聞くと嬉しそうに指をパチン、と鳴らした。
『ほうっ!それは良いね、面白そうだ!!』
「ダハハ!!我ながらグッドアイデアゾイ!!そうと決まればすぐにその準備と用意をするゾイ!!決行は明日の第1番ゾイ!!」
『OK,OK。じゃあ、明日をお楽しみに』
グッとマスターハンドが親指を立てたところでモニターの通信が切れた。
首尾良く事が進んでデデデの口から満足そうな笑い声が溢れる。
「ムフフフフ、うまくいったゾイ」
「デデデ陛下、一体マスターハンドに何をお願いしたので?」
ルイージの質問にデデデは満面の笑みを浮かべる。
だが、言い出したくてたまらない口元を抑えると、焦らすように人差し指を立てて振った。
「さあそれは~、ひーみーつー。明日のお楽しみゾイ」
「ええっ!!そんな意地悪なー!!」
「ダッハハハハハハ!!だがこれで全て丸く収まるゾイ」
その夜はデデデの自慢げな笑い声とルイージの悶え声が部屋から止まらなかった。
翌朝、朝6時ジャストで変更になったその日の大乱闘の対戦カードの組み合わせや詳細情報がそれぞれのファイターの元へ届けられた。
変更された第1試合は定刻十時からと決まっている。
本日の対戦カード内容にデデデは満足そうにニヤリと笑った。
「さすがマスターハンド。面白いカードにしてくれたゾイ」
手にした詳細票は本日の第1試合は・・・。
『本日第1試合 10:00~ チームストックバトル
レッドチーム:ネス、リンク
ブルーチーム:リュカ、メタナイト』
「ええっーーーーーーーーーー!!よりによってネスとリュカがチーム別で対決!?おまけにペアが優勝常連のリンクとメタナイト卿だなんて!!」
詳細票の内容にルイージは悲鳴を上げた。
まるで仕組んだような展開、もっとも差し金はデデデの仕業だとわかってはいるが、狙いがさっぱりわからない。
これでは悪くなっている仲をより悪くしてしまいそうなものだった。
「なんだってこんなことを!?デデデ陛下、ネスに追い打ちを掛けるような真似・・・」
「果報は見て待てゾイ。こんな面白い試合、見逃す手はなーい!!すぐさま観覧席の特等席をキープするゾイ!!いけーっ!!」
デデデに使いっ走りをさせられ、部屋から追い出されたルイージはネスに声をかけることも出来なかった。
観覧席に向かいながらルイージは深くため息を付く。
(デデデ陛下も何を考えているのやら・・・、せめてこれ以上関係が悪化しないと良いのだけど・・・)
ルイージが特等席をキープした後、早朝にも関わらず普段モニターで済ませるファイター達まで観覧席に集まって、特等Sクラス・Aクラスはあっという間に埋まってしまった。
その中には・・・。
「兄さん!!来たの!?」
「おや、ルイージこそ早いじゃないか。おはよう、面白そうな試合だから是非生で見たくてね」
そう言いながらチームメイトのピット達を連れてきたマリオはルイージの隣のA席に陣取った。
隣に座った兄・マリオにしか聞こえない声でルイージは昨日の一件、そして今回の大乱闘がデデデの仕組んだものであることを告げた。
「なんだって、そんなことをしたのか!?」
「どうしよう兄さん、下手したらあの子達の関係が悪化してしまうよ。ねえ、兄さん。チームメイトのよしみとして、リンクに二人を戦わせないようスタンドプレーしてくれないように頼んでもらえないかな?」
最後の頼みの綱としてルイージはマリオに提案を持ちかける。
だが、これにはあっさりマリオは首を振った。
「それは無理だよルイージ。リンクはもう控え室にいるから連絡は取れないし、そういう裏工作はリンクが一番嫌うことだ。第一、受け入れてくれたところで相手にメタナイトがいるんじゃ、いくらリンクでもそこまでうまくできないよ」
「それに、メタナイト卿とリンクは犬猿の仲だしね。さっきもメタナイト卿、リンクを切り伏せるって、やる気満々だったから・・・。たぶん、実力から言ってメタナイト卿とリンク、リュカとネスで戦うような形になるんじゃないかな?」
すぐ後ろの席に座って二人の話を聞いていたマルスが付け加えた。
耳の痛い報せにルイージは沈み気味だった気分が余計に滅入るのを感じた。
試合開始十分前になってワドルディ達に運ばれてきたデデデがルイージの確保していた席にどっかりと腰を下ろす。
会場は観客で満席、興奮した歓声が耳をつんざくほどに響いている。
「あっ!始まりますよ!!」
興奮したピットの声にルイージは思わず顔を上げた。
ステージの登場と共に、ファイターが入場してくる。
間もなく、試合開始のカウントダウンが始まった。
カウントダウンに合わせて、出場ファイターがステージに現れる。
ネスはステージ左側、リュカはステージ右側に現れた。
だが、昨日の一件のため、心なしか両者の表情は冴えない。
対照的にペアのリンク、メタナイトは嬉々として相手を見据えている。
「あの、メタナイト卿・・・。ボク・・・」
「リンク、あのさ・・・」
ネス・リュカがそれぞれのペアに声をかけた。
『Fight!!』
試合開始を告げるアナウンス。
それと同時にメタナイトが一瞬でリンクとの間を詰めて斬りかかった。
だが、リンクも負けていない。咄嗟に構えてメタナイトの剣戟を受け止めた。
「ネスッ!!ロリコン卿は俺が押さえつけておくから、今のうちにアイテム探すか、袋だたきにしろっ」
「誰がロリコンだ!!この性悪勇者が!!リュカ、私が相手をしている今のうちに倒せ!!」
「ロリコン一頭身に負けてたまるか!!」
「黙れ!二枚目面の性悪!!」
マリオ・マルスの予想通り、開始早々リンクとメタナイトで激しい乱戦が始まった。
あまりに激しい激戦にネスもリュカも迂闊に近寄れない。
だが、そのまま黙っているわけにもいかなかった。
「リンク、ぼくも加勢するよ!!PKファイアー!!」
ネスの指先から発したPSIがメタナイトめがけて飛ぶ。
ぶつかる直前にディメンジョンマントで回避したが、それでもマントに炎が燃え移った。
「くっ!」
「メタナイト卿!・・・っ、PKフリーズ!!」
仲間のピンチにリュカもPSIでネスの炎を鎮火した。
当面の危機は去ってほっとしたリュカだが、リンクはわずかな隙も逃さない。
すぐにメタナイトに切り返した。
リンクとメタナイト、レベルの高く実力も伯仲している二人はほんの些細な影響で戦況が変化してしまう。
(やっぱり、ネスを放っておけない・・・。ボクが動かないと・・・)
(リンクの技は多彩だけど、メタナイトみたいに特殊技の回避は得意じゃない。リュカが援護したらリンクが・・・)
その結論に達したネス・リュカは同時に相手を捕らえる。
((ぼくが何とかしなくちゃ!!))
リュカの指先からPKの光が、ネスの体からPKのオーラが迸った。
「ネスッ!!メタナイト卿の受けた分、お返しだよ!!」
「させないよ!!ぼくだってリンクを援護するんだ!!」
剣士同士、PSI使いの少年同士で激しいバトルが繰り広げられ、観客席から盛大な歓声が上がる。
ルイージは真っ青になってその様子を見ていた。
「あああ・・・、やっぱり心配したとおりの展開になってしまったぁ~!!デデデ陛下、どうしてくれんですか!!」
ルイージは隣のデデデに詰め寄った。
だが、デデデは相変わらずどっしりと構えて堂々としている。
「何を慌てているゾイ、ルイージ。もっと観戦を楽しむゾイ」
「楽しめるわけ無いでしょ!!これでネスとリュカの仲が険悪になったりしたら!!」
「お前の目は節穴ゾイ。よく見ろ」
そう言ってデデデはオペラグラスをルイージに渡しながらステージを指さす。
指さした先にいたのは空中戦を繰り広げているネスとリュカ。
お互い一生懸命なのだろう、真剣そのものの表情で相手に向き合っている。
(・・・あ)
オペラグラスでネスの様子を見ていたルイージはネスの様子が昨日とは違うことに気がついた。
あんなに落ち込んでふさぎ込んでいたのに、ネスはリュカと戦うのに全く抵抗がない。
むしろ、戦うことを楽しんでいるようにさえ見える。
隣に座って観戦していたマリオも思わず声を上げて笑った。
「これはいい!!なんてエキサイティングな試合なんだ!!全力を出して緊張感があっていつやられてもおかしくないのに、見ていてワクワクするよ。ねえ、ピット」
「リンクとメタナイトの戦いも良いけど、ネスとリュカも良い戦いぶりですよ。ああっ!!ボクも早くあんな試合したいな!!」
ピットも目を輝かせて試合に夢中になっている。
全力で何かをする様子はいつだって人の心を惹きつけて止まない。
そして、それは相対する間柄にとっても・・・。
(まさか・・・、デデデ陛下は・・・)
思い至ったルイージは傍らのデデデを見上げる。
デデデは必死にネスの応援をしていて、ルイージの事など気に掛けている様子はない。
だが、ルイージにはようやくデデデの不可解な行動の意味が読み取れた。
元々の喧嘩の原因は相手への認識不足が招いた事。
それを解決するには・・・。
(そうか・・・。だから、陛下はわざとネスとリュカが全力でぶつかり合う舞台を用意したのか。お互いの全力を出させて、もう一度お互い友達だと、ライバルだと認め合うために・・・。)
「PKサンダー!!」
「アーッチ!!」
リュカのPKサンダーがネスにクリーンヒットして場外に叩き飛ばされてしまった。
しかし、空中で必殺技発動させたリュカの足場は・・・。
「ウアウッ!!」
「あっ!!しまった、ネス!!」
「リュカ、なんと詰めの甘い真似を・・・」
二人同時に残りストックを切らしてしまって場外アウトになってしまった。
それまで互角の戦いをしていたリンクとメタナイトも残りストックは無く、ダメージも大きい。
間合いを取ると両者にらみ合った。
「これで最後だ!!」
「・・来るがいい!!」
そして二人同時に相手に向かって斬りかかる。
剣と剣がぶつかり合う刹那、その場にボム兵が出現した。
「「あっ」」
慌てて触れないようにしようとした二人だが、勢い付いた剣は納まらない。
『ちゅどーーーーーーーん!!』
ボム兵の爆発と共にその第1試合は幕を閉じた。
判定の結果、吹っ飛ばされたときにステージ空間に残っていた時間の長かったリンクが勝ち残りになり、勝者はレッドチームになった。
「くそっ!!私はあんな負け方認めんぞ!!次は実力で叩き伏せてどちらが上かはっきりさせてやる!!」
「運も実力のうち!!それに俺はお前にだけは負ける気しないぜ!!次ではっきり白黒付けてやる!!」
試合のヒートアップした空気のまま、控え室を出て廊下を歩きながらリンクとメタナイトは口論を始めた。ネスとリュカも一応、その後に続く。
ネスはいつもの様に手を繋ごうと手を差し出しかけて、慌てて引っ込めた。
すっかり喧嘩していたことを忘れていた。
リュカはネスが手を引っ込めた事に気がついていた。
それでも・・・。
「ねえ、ネス・・・」
「昨日は・・・、ごめんね」
立ち止まって声に出したリュカにネスは立ち止まってリュカを振り返った。
そして軽く首を横に振るといつものように笑って、手を差し伸べる。
「ううん。ぼくも、リュカの気持ち考えなくて、ごめんね」
リュカはその言葉にぱっと表情を輝かせて顔を上げる。
試合後の食事に誘ったリンクとメタナイトの言葉にネスとリュカは子供らしく素直に喜んで賛成する。
そして、二人手を繋いで後に続くように追いかけた。
久々にリンク&フォックスのお題にまた再チャレンジ☆
今回のお題は「絶えない衝突」
最近の友達事情を察すると、昔ほど今の子供って友達同士本気で喧嘩することが少なくなっているみたいです。
当たり障りのないお付き合い、感覚が子供にも浸透しているようで・・・。
友達同士で喧嘩することについては、「めんどくさい」「うっとうしい」「ウザイ」等々、面倒ごとと捉えている子供が多いみたいです。
でも子供は下手に大人ぶったような計算尽くで友達になるよりも、思いっきり笑って、思いっきり怒って、思いっきり泣いて、思いっきり楽しんで友達をしたらいいんじゃないでしょうか。
はっきり言って上記のお付き合い感覚で友達づきあいしているのって、なんか後ろ暗い・・・。
『Balance of courage and wisdom』
(勇気と知恵の秤合わせ)
「やっぱり、コーネリアステージはアーウィンをうまく利用した方がいいんじゃないか?」
「うーん、でも下手したら自分がダメージを喰らうよ」
ファイターみんなの憩いの場所である大食堂の一角、チェスに見立てたボードとフィギュアを使って真剣にリンクとフォックスが大乱闘の作戦や戦法を研究している。
その様子を遠目で見ていたマリオは微笑ましそうに相好を崩す。
「ほう、二人はいい相談相手同士らしいね。二人とも賢いしテクニックもあるだろうし、きっとレベルの高い内容を話しているんだろうなぁ・・・」
「そうでもないわよ。マリオ」
マリオの独り言を耳に挟んだサムスがため息混じりに告げる。
サムスの言葉に不思議に思ったマリオが訳を聞く前に、他の席でマリオ同様二人の様子を見ていたキャプテンファルコンがマリオとサムスのいる方に来た。
その額には嫌な汗をかいている。
「やばくなってきた、そろそろ始まるぞ」
「またぁ!?」
「・・・また?」
意味深な二人の言葉にマリオは首を傾げた。
「何だって!もう一回言ってみろ!!」
「わっ!なんだなんだ!?」
突然の大声にマリオは辺りを見渡す。
すると、さっきまで活発に意見を交わしていたリンクとフォックスの様子がお互い立ち上がって、険悪な雰囲気になっている。
「モーションセンサー爆弾なんかよりもボム兵の方が効果的だろ!?設置したところで小さいから見えずらくて、自分で踏んで自滅したら意味無いじゃないか!!」
「冗談じゃない!!ボム兵なんか文字通り爆弾抱えていつ爆発するかわからないリスク背負って戦わなくちゃいけないんだぞ!!」
話の内容から察するに、どうやらアイテムの使用の話で意見が食い違ったらしい。
リンクも自分の持論を曲げる様子はなさそうだし、フォックスもなかなか引き下がりそうにない。
相手に遠慮も譲歩も一切無い加熱した論争にマリオは感心したように声を上げた。
「ほおぉ、いやはや若いねぇ。それも実にレベルが高い、さすが二人とも若いながらも優秀なファイターなだけある」
「そうじゃなくって・・・」
さっきからしきりに感心しているマリオにサムスはわかっていないと言わんばかりにため息をつく。
口論はまだ続いている。が、さっきまでの話の内容とは大きく趣旨がズレ始めていた。
「さっきまでは俺の意見がいいって言ってたじゃないか!!」
「俺が賛成したのは全部じゃなくて前半分だけだっ!!」
「なんだよそれ!!そんなこと一言も言ってなかっただろ!?」
「全部言って聞かせるまでもないだろ!!それくらい空気読んで察したらいいじゃないか!!」
「どう考えたらそう自分本位の考え方出来るんだ!お稲荷様よろしくお高くとまって!!」
「そのセリフ、勇者様よろしく合理主義即物的って言葉に置き換えてのし付けて返してやる!!」
「なにおうっ!!」
「なんだよっ!!」
しばしお互いにらみ合いの状態が続いた。
だが、先にリンクがテーブルを強く叩いて立ち上がる。叩いた衝撃でフィギュアの幾つかがテーブルに散らばった。
「わかった、もう戻る!!一人で頭抱えてろ!!」
そう言うなりリンクは踵を返して、カービィと一緒になってじゃれていたピカチュウを連れて食堂を出て行ってしまう。
フォックスは後を追うような事をせず、カービィが散らばったフィギュアを拾って差し出してくれるまでそっぽを向いたままだった。
あまりに壮絶な言い合いの後、食堂には静けさが戻ってきたが、まるで台風の後のような静けさだった。
普段二人のスマートな一面しか見えていなかったマリオは繰り広げられた光景に冷や汗を浮かべていた。
サムスはため息を一つつくとマリオに話しかける。
「わかったでしょう。子供の喧嘩なのよ。基本的に」
「おやまあ・・・」
「気付いていなかったのはマリオやルイージ、あとヨッシーくらいのもんだ。周り見てみろ」
キャプテンファルコンの言葉にマリオが食堂を見渡すと、さっきまで賑やかだった食堂には他に誰もいない。
ネスやドンキーが騒ぎが収まったのを様子見に来て、ほっと胸をなで下ろしてテーブルに着いたのが見えた。
「・・・・・」
「子供の喧嘩とはいえ、上位ファイター二人があれだけ激しく言い合ってるんだ。みんな逃げたくなるのも道理だな」
「唯一逃げないのは二人と仲良しなカービィとピカチュウくらいね。結構あの子達も大物だわ」
いつも通り、変わらずフォックスの相手をしているカービィを見ながらサムスは困ったように笑う。
だが、カービィやピカチュウのおかげでリンクやフォックスが多少機嫌を直しかけている。その点においてはサムスは二匹に感謝したい気持ちだった。
マリオは呆れたように帽子の上を掻いた。
「やれやれ・・・、これじゃあ二人の中の修繕は絶望的だなあ」
「は?」
「本気?」
マリオの言葉にファルコン・サムスから拍子抜けしたような声が上がった。
そして一瞬間が空いたかと思うと、二人はさもおかしそうに笑い出す。
「ミスター任天堂ともあろうものが、結構鈍感なんだな!!」
「子供の喧嘩なのよ?そんな、長く引きずると思う?」
最初、二人の言い合いを見たファルコンとサムスも驚いたものだった。
だが翌日になってみると二人はいつも通り、いや、いつも以上に仲良くなって話していた。まるで喧嘩がきっかけでよりいっそう仲良くなっている、二人も喧嘩をどこかしら楽しんでいるようにさえ見えてきた。
「でも、初めてあった頃からしたら、今の二人の様子は想像できなかったろうな。二人とも、どこかしら優等生っぽいというか近寄りがたい雰囲気していたし、強かったしな」
「たぶん、あんな風に活発に意見を遠慮無く交わし合える仲間が今までいなかったんじゃない?随分二人とも明るくなったわよ」
「・・・そういうものなのか、な?」
二人の言葉にマリオはいまいちピンと来ないようでしきりに首を傾げていた。
この言葉の意味がわかるようになったのは、一週間後。
その間に3回喧嘩して、それでも絶対に次の日には楽しそうに笑い合っているリンクとフォックスの姿を見てからだった。